今回は、東野圭吾さんの小説『禁断の魔術』の感想をお伝えしたいと思います。
ガリレオシリーズらしく、思いっきり「科学」が全面に出ている作品です。
凶器もさることながら、「科学者とは」という大きなテーマも流れています。
湯川先生の人間味あふれるシーンがたくさん見れるというところも見どころでしたね。
それでは、核心部のネタバレは避けつつ、お伝えしていこうと思います。
すでに読んだ方は、自分の感想と比べながら読んでいただけたら、とても嬉しいです。
どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。
あらすじ
六本木のホテルのスイートルームで女性の遺体が発見された。
女性の弟・伸吾は、この姉の突然の死に、ある政治家が絡んでいたことを知り、復讐を決意する。
政治家のスキャンダルを嗅ぎ回っていたフリーライターも殺害されてしまう。
そして現場に残されたメモリーカードからは謎の武器の実験映像が記録されていた。
化学の力を使って復讐をはたそうとする弟をとめるために、高校の先輩だった湯川が動き出す。
禁断の魔術の感想
最初は登場人物が多くてちょっと混乱気味でしたが、いちいち確認しながら読んでいかなくても、自然と理解できるように描かれていたので、さすがの一言です。
スーパーテクノポリス計画との関係が、なかなか明かされずに、最後にどうやって絡んでくるのか楽しみにしながら読み進めていました。
湯川と愛弟子・伸吾の絆
高校の後輩の物理サークル廃部の危機に手を貸す湯川。
その過程で、難解な話に諦めかける伸吾に湯川が、
「諦めるな。過去の人間が考えついたことを、若い君たちが理解できないなんてことはない。一度諦めたら、諦め癖がつく。解ける問題まで解けなくなるぞ。」
と、粘り強く説明するシーンがあります。
かつては自分の興味あることにしか頭にないような湯川先生でしたが、後輩とはいえ、他人にこんなことを言うようになっていることに大変驚きました。
この次の作品である『沈黙のパレード』でも、街の人々に溶け込もうとする湯川先生がいます。
だいぶ人間的に変わったのだなと、興味をひかれました。
捜査が進み、伸吾がどんどんと追い込まれていく中でも、警察の話をききながら、作業台で拳を叩き、呻くような声を出し葛藤する湯川先生。
長い間一緒に捜査をしていた内海薫でさえも、はじめて見た湯川先生でした。
このシーンを読んでいるときに、『容疑者Xの献身』のときの湯川先生を思い出しました。
この時も彼は、友人のために思い悩み、頭が賢いゆえに犯罪などと言う馬鹿げた行為に走らないで欲しいと願っていたのです。
伸吾のために苦悩する姿は、やはり確実に「人」に対して興味を持っている。
それほど成長と経験を重ねていっていることがわかりました。
古芝伸吾も湯川先生のことを心から尊敬しており、上記の言葉を別のシーンで、そのまま他の人に使っている彼に、とても好感を抱いたのはいうまでもありません。
ガリレオシリーズらしい謎の凶器
復讐に利用しようと考えた武器がまた、ガリレオシリーズらしくて面白かったです。
拳銃やナイフではなく、自作の科学の力を使った武器でした。
電気の力で長距離から相手を狙える大砲みたいなもの。
ただ、なんでレールガンだったのか?というのは少しとまどいがありました。
持っていても銃刀法違反にはならないからとありましたが、結局、捕まるどころか復讐をやりとげたら自殺までする覚悟だったわけですよね・・・。
計画を途中で止められるリスクを考えた?
しかし、銃に比べたらあまりにも当たる確率は低い。
遠くから打てるからといっても、長距離銃で射撃したほうがまだ当たるのでは?
と妙に冷静な目を持ってみてしまった自分がいました。
1km先から撃てるとのことだったので、やはりこの武器じゃないとダメだったのかなとも思いましたが。
設計図を見た瞬間に、湯川先生が、みかんの皮と言ったシーン。
まさか終盤にちゃんと「伏線」の一つとして回収されたのには、ちょっと笑えました。
「こまかーっ」てなりました。
姉のための復讐
ミステリではいつも出てきますが、身内を殺された復讐は果たして正義なのか悪なのか?
今回のこの作品にも「復讐」というテーマが重くのしかかっていると思いました。
たった一人の家族を見殺しにされた彼の心境を考えると、とても苦しくなります。
科学の力を復讐に利用しようとした。
それを湯川本人が教えた、その事実を湯川自身はどう考えているのか。
それも一つの見どころでした。
復讐願望ではなく、姉のために復讐しなければいけないという「義務感」からの行動だという考えは、面白い視点だと思いました。
そういうものなのかと、想像していなかったので。
姉の真相にたどり着いた時のしんごの話を読んでる時は、胸が張り裂けそうでした。
なんで不倫なんか?なんであんなやつと?しかもなんで、見殺しに?
そりゃぁ、やりきれないでしょと。
しかも、その見殺しにした政治家のおかげで、奨学金がおりて自分は大学に行けることになったなんてそんなのありかと。
やめたくなる気持ちに大いに共感してしまいました。
政治家の意外な正体
まさかの政治家・大賀は根がいい人だったという事実。
こう言う物語に出てくる政治家は、大概があくどいものという思い込みをまんまと利用されました。
これもかなりのミスリードだったかなと。
このタイプは初めてだったので、かなり面食らいました。
「お酒も好きだが、甘いものにも目がなかった」なんて一文は、普段、物語で思い描く政治家とのギャップを大きく表した、みごとな表現だと思いました。
「ベッドの上で両手をついて誤った」なんていうところも、秋穂の尻に敷かれていた様子がとてもよくわかり、なんかかわいいですよね。
大賀よりも秋穂の方がよっぽどタフで明るくて強かった。
スーパーテクノポリスの話になると大賀は子供になる、とからかわれる始末。
二人の楽しい会話が、心を温めてくれました。
最後の最後で、彼女を見殺しにした行為はとても許せるものではありませんが、
「悪者になる、泥をかぶる。」そういう覚悟があって動いていた大賀は、悪人ではなかっただなんて、これだけでもうこの本を読んで、「だまされたー」となって興奮しました。
伸吾に復讐されてもしょうがない、殺されてもいいとさえ思って、伸吾が行おうとしていたことを許容していました。
むしろ、秘書の鵜飼はしたたかでドライ。
大賀が直接刑事とやりとりはせず、すべて秘書の鵜飼がやっていたのも、刑事をあしらうためというよりは、逆に大賀自身が刑事と対面する器量がなかったからなのかなとも思いました。
鵜飼が自らが刑事と対峙した方がいいと、本人が率先して対応していたのだろうと思います。
「大賀仁策」という組織名だと言うことをお忘れなく、という秘書の言葉は、新鮮でした。
政治家というのはそういうものなのかと、少し勉強になりました。
作りあげられた犯人
スーパーテクノポリス建設側の人間が、反対派の人間の弱みにつけこんで、巧みに懐柔していく様子は、読んでいて目が離せませんでした。
ドロドロとした説得というか脅しというか。
そして、揺れに揺れる犯人の心理描写も見事で、読んでいるこっちがドキドキしっぱなしでした。
人がはめられて、あやつられていく様がとてもリアルに描かれていて、読み応え抜群でした。
読後感
読んだあとは爽やかな気分でした。
終盤は、ヒューマンドラマ性が強いと思った。
湯川先生と伸吾の絆、科学者であった父と子の関係。政治家と秋穂の本当の関係。
最後が花見のシーンだから余計にそう感じたのかもしれません。
湯川と伸吾の計画実行ギリギリまでの会話は、胸にこみ上げるものがありました。
(個人的に父と子の話に弱いというのもあるかもしれませんが)
さいごに
父の軍需産業(地雷)の話から、その懺悔へ。
科学の力は使うものによって大きく意味がかわる。
ガリレオシリーズでよく出てくるテーマですね。
たぶんこれは実際に科学に携わっていた東野圭吾さんだからこそ、書ける(言える)メッセージなんだろうと、重く受け止めることができました。
科学者としての責任、教え子が間違った方向へいってしまった責任。
これらの責任をとるために、自らをかけて伸吾を止めに行った湯川先生の覚悟は、やはり今までに見たことがないくらいの気迫ある行動でした。
とても楽しく読ませてもらいました。
そして、「復讐」や「道具をあつかう人」ということについても、深く考えさせられた作品でもあります。
ありがとうございました。
個人的に、内海刑事と岸谷刑事、草薙刑事が一緒に同じ現場で働いているシーンには胸が踊りました。
(ドラマではSP以外、見られないシーンだったので)
最後までお読みいただきありがとうございました。
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