今回は東野圭吾さんの『むかし僕が死んだ家』の感想やあらすじについて、お伝えしていこうと思います。
ミステリー小説なのですが、かなりホラー色も強く、東野圭吾さんの作品の中では珍しい作品となっています。
ほぼ「山奥にある白い家」で全編が展開されるという、とても面白い構成なのですが、これでもかというくらい、謎が謎を呼ぶ展開に目が離せません。
『透明な螺旋』との関係性も話題になっていますね。
それでは、よろしければ最後までお付き合いくださいませ。
Contents
あらすじ
主人公・「私」は別れた元恋人の沙也加から、ある場所へ行くのをつきあってほしいと頼まれる。
そこは亡くなった彼女の父親が定期的にひっそりと通っていた、山奥にある白い家だった。
沙也加は幼少期の記憶がすっぽりと抜けおちていた。
ある出来事をきっかけに、その記憶を思い出さないといけないと考える沙也加。
そして、その手がかりが白い家にあるような気がするという。
周りの住民も詳しいことはまったく知らないという不可思議な家。
その家に向かった二人は、不気味で奇妙なものを目の当たりにする。
一体ここで何が起きたのか。
そして、沙也加の過去とこの家の関係とは。
最後には予想もしない驚きの悲しい真実が待ち受けていた。
むかし僕が死んだ家の感想〜じわじわくる怖さ〜
最初にこの本を手に取ったきっかけは、東野圭吾さんの作品で次に何を読もうかと迷っていた時でした。
そして、本屋で背表紙をズラーっと見ていて、あまりにもどストレートで衝撃的な題名だったので興味をそそられたのです。
「むかし僕が死んだ家」
もうこれだけで何があったのかとても気になりませんか?
タイトルを目にしたが最後、当然のようにこの本に引き寄せられました。
この作品は、主人公「私」の視点のみで進んでいきます。
なので、同時刻に他の人の視点で突然きりかわったりということがなく、とても読みやすい構成になっていると思います。
沙也加がつい自分の娘に暴力を振るってしまう。
それが原因で夫が娘を連れて出て行ってしまう。
そんな自分が嫌だ。
虐待してしまう理由が過去にあるのではないか?
しかし自分の幼少期の記憶がすっぽりない・・・。
この時点ですでにじわじわと怖い雰囲気が漂っているなと感じていました。
沙也加の過去を知るべく、謎の白い家を尋ねたところから物語は加速度的に面白くなっていきます。
この家、というか作品全編を通して、登場人物は「私」と「沙也加」の二人のみ。
まるで演劇の舞台を見ているような作品です。
基本的には、その家という一場面で展開されていくからです。
ホラー要素満載のミステリー
白い家が、不気味すぎてとにかく怖い。
御厨啓一郎と妻・藤子、そして幼い佑介が住んでいた家。
最初に「私」と沙也加が家を訪ねたところから、ホラー小説のような始まりなのです。
隠してある鍵穴に真鍮の鍵を差し込み、地下室へ入る2人。
正面玄関は入れないように四隅を打ちつけられた扉となっている。
仄暗い家の中、懐中電灯を頼りに探索していく。
ふと目線が会うフランス人形。
こんな感じで薄気味悪さが続いていきます。
この段階になってくると、もはや小学生が書いた「ひらがなだらけの日記」さえも、不気味に感じる状態におちいってました。
モンスターや幽霊といったたぐいのものが出てくるわけではないのですが、常に不穏な空気が身体中を覆っているような、常に小さな鳥肌がたっているような、そんな状態でした。
また、この物語には「虐待」というテーマがあります。
沙也加が過去を調べたいとなったきっかけも娘への虐待であるし、白い家でおこっていた数々の出来事もまた様々な虐待が関係していることがわかります。
このテーマ自体がすでに何とも言えないホラーというか、負のオーラを物語全体に漂わせている1つの要因ではないかと感じました。
とにかく不気味な登場人物
御厨啓一郎は、実の息子をできそこない(失敗作)ときっぱりと切り捨て、今度こそ完璧に育て上げてみせると、孫を自分の息子のように育てはじめます。
自分達夫妻のことを、「おとうさん、おかあさん」とよばせる徹底ぶり。
ロボットのような育成教育。
対外に向けては一見普通の厳格な父親なのかもしれませんが、その内面は相当狂っているように思えてしまいます。
妻の藤子も、家のレプリカを建てて、その中までも再現するという驚きの行動をしています。
人並外れた執着が、そこには垣間見れました。
啓一郎が亡くなり、「あいつ」が帰ってきます。
チャーミーを連れて。
このチャーミーが、かなりのキーポイントになります。
佑介の日記を読む限り、とても嫌な感じの「あいつ」が動物を連れてくるのか?
という謎のモヤモヤ感をこの時すでに感じてはいました。
そして、「あいつ」というのが、佑介の実の父だということがわかります。
日記によると佑介に虐待を繰り返すひどい父親。
酔っ払って帰ってくると、自分の母である御厨藤子にも手を出す始末。
前編中盤と、この人物は「あいつ」と語られており、何者かわからないというところが、またこの作品に狂った恐怖を加えていると思います。
そして「あいつ」はさらに許されない虐待もおこなっていた。
この事実に気づいた時は、本当に気分が悪くなりました。
謎が謎をよぶ好奇心くすぐられっぱなしの展開
沙也加の父親が持っていた、謎の鍵と地図。
そこからはもうノンストップで謎が湧き出ては進んでの繰り返しです。
こんな展開の作品を、途中で手を休められるわけがないと思いました。
ドラマでいったら、「24」や「プリズンブレイク」、「ブラッディーマンデー」「あなたの番です」みたいに、次が気になって夜中でもやめられない!みたいな感じです。
家の中の全ての時計が11時10分に合わせられているのはなぜか。
父が沙也加には内緒でこっそりと白い家に通っていた理由は何なのか。
忽然と住人が姿を消してしまったような家。
23年前に何があったのか。
日記に出てくる”あいつ”とは誰なのか。
沙也加の過去に一体何があったのか。
この家の正体がわかった時には、驚いて一瞬固まりました。
伏線の盛り合わせ
伏線をひとつひとつ確認していったら、ありえない数になるんじゃないかと思うほど。
佑介の日記を中心に展開していくので、これまたどこまで事実なのかもわかりません。
なんといっても、チャーミーの存在がポイントなんですが、そのことに気づいた瞬間は頭が混乱しました。
そして、「ということは…」と考えて、今までの情報を遡っていくと…。
点と点が繋がって、一気に襲ってくるおぞましい恐怖。
身震いしました。
「意味がわかると怖い話」みたいな感覚でした。
想像を飛び越えたまさかの真実
家が建てられた方角の違いに「私」が気づいたところから、一気にアクセル全開です。
数々の伏線がバチバチとつながっていく。
そして、火事が起こった時に起こった衝撃の事実。
目が回るほどの急展開でした。
そもそも「何のためにこの家は建てられたのか」。
そんなこと考えもしなかった。やられました。
クノッソスの宮殿?タージマハール?
おわりに
「あいつ」がしたことはとても許されることではありませんが、彼ももまた、啓一郎の被害者なのかもしれないと思いました。
暴力というよりは精神的な虐待をずっとされてきたともとれる。
沙也加の虐待の元の元を辿れば、この人に行き着くとも考えられるわけです。
「あんな人間の真似をしてはいけない」と言われていた佑介は、すでに「あいつ」に大きな嫌悪感を抱いている。
佑介もまた啓一郎にひどく洗脳されていたわけです。
真実を知った、沙也加の気持ちは計り知れません。
自分が思い描いていたアイデンティティーが根こそぎ持ってかれる気持ち。
過去を知らなければそれはそれでなんとか別の形でうまくいっていたのだろうか。
そんなことを考えながら、読了後は、余韻に浸っていました。
「むかし僕が死んだ家」というタイトルの意味については、曖昧ではありますが、2つの考えがよぎりました。
① 「私」がいうように、誰しも幼い頃に、自分を抑えて周りに合わせる瞬間があるはずだと。ならばその瞬間、その場所は、僕(みんな)が一度殺された場所かのかもしれない。
②幼い佑介が書いた日記のようにタイトルを読んでみると、なんとなくトーンが似ているような気がしたので、この僕とは佑介のことなのかもしれない。
本当のところは一体どうなのでしょうかね。
事情を知った上で伏線を確認しながら読む二回目が、これまたとても楽しかったです。
二回読んでみて、本当にすごい作品だと思いました。
東野圭吾さんの作品を読んだことがない人にもおすすめできる傑作です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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