東野圭吾さんのマスカレードシリーズの第三弾『マスカレード・ナイト』が文庫化されました!
最初の『マスカレード・ホテル』は木村拓哉さんと長澤まさみさんを主役として映画化され大ヒットとなりました。
今回の『マスカレード・ナイト』も犯人からの密告状が届き、ホテルを舞台として捜査がはじまります。
それぞれの事情を抱えたお客様たちの中に、紛れ込む犯人。
警察とホテルマンの視点から犯人が誰なのかを追いかける展開は、とてもスリリングで面白いです。
そんな魅力たっぷりのこの作品のネタバレありのあらすじを感想とともにご紹介したいと思います。
まだ未読の方はご注意くださいませ。
Contents
あらすじ
事件発生と密告状
匿名通報ダイヤルから連絡があり、練馬区のマンションで女性・和泉春菜の死体が発見されます。
マンションで聞き込みをはじめると、被害者宅に出入りする男性の姿が複数の人物に目撃されました。
そして、警視庁に密告状が届きます。
内容は、
「情報提供をさせていただきます。ネオルーム練馬で起きた殺人事件の犯人はが、以下の場所に現れます。逮捕してください。12月31日午後11時 ホテル・コルテシア東京 カウントダウンパーティ会場」
というものでした。
練馬マンション殺人事件の捜査
春菜(殺害された女性)はボーイッシュで色気のない服をきていたという証言がある一方で、クローゼットには少女趣味の服ばかりが入っており、新田たちは違和感を感じます。
殺害現場となったマンションの共同玄関には防犯カメラが設置されており、そこに写っていた人物がホテルに現れないかを警察は懸命に見張ります。
匿名の通報の正確な内容は、「練馬区にあるマンション、ネオルーム練馬の604号室を調べてください、女性の死体があるかもしれません」という曖昧な通報でした。
断定ではなく憶測ということころに、新田たちは引っかかります。
練馬の殺人事件は実は連続殺人事件ではないかという仮説が浮上します。
春菜がボーイッシュになったのは中学の夏頃からという証言が。
家庭で何かがあったのではないかと。
母親に男ができたのが関係しているのではないかと。
おそらく男にいたずらされたとのことでした。
捜査が進む中で、「感電死」「ロリータ」でというキーワードでヒットする事件が過去にあったことが判明します。
しかしそれは3年半前・・・。
ホテルでの捜査
以前にものこのホテルで事件捜査にあった新田が、再びホテルマンに扮して捜査にあたることになりました。
当時一緒に組んだホテル従業員の山岸尚美は、今はコンシェルジュとして働いていました。
今回新田はフロントの氏原と一緒に仕事をすることになりますが、氏原は新田にフロント業務をやることを許可しません。
そのため、新田はホテルマンの格好をしながらフロント内で怪しい人物を見つけることに集中します。
そして、新田は12月31日に開催されるカウントダウンパーティが「マスカレード・ナイト」という仮想パーティだということを知ります。
日下部がチェックインします。
日下部がチェックイン後、尚美にある相談を持ちかけます。
それは、レストランを貸し切りにして、彼女へプロポーズをしたいので、その演出と段取りをお願いしたいとのことでした。
大々的な演出のために、どうしても貸切じゃないとできないというのです。
尚美は早速なんとかできないかと各方面に連絡をとりながら要望に応えようと動きます。
すると、今度はプロポーズされる予定だった女性からプロポーズは断りたいが、彼を傷つけないようにしてほしいと尚美は頼まれます。
日下部が色々と仕込みをしているのは彼女も勘付いていて、なんとかできないかということでした。
尚美は悩みますが、双方の希望を入れて、なんとか上手くできないかと頭を捻ります。
最終的に演出に使う薔薇の花をスイートピーに変えて、「新しいそれぞれの門出」を演出することにしました。
花言葉「別離」。
尚美がたてた計画は上手くいくのでした。
後日、日下部は今度は仲根緑と引き合わせて欲しいと相談にきます。
仲根緑は先日チェックインしたとても綺麗な女性でした。
日下部はその彼女を見かけると、何か運命的なものを感じたようでした。
ふられたばかりなのにと内心尚美と新田はは唖然とし困惑します。
しかし、「無理とは言えない」尚美はなんとか考えます。
浦部幹夫がチェックインしました。
大晦日の前夜から東京のホテルに1人で2泊するのは不自然だと新田は疑いの目を向けます。
続いて、曽野昌明がチェックイン。
家族でチェックインのようだが、いつもは不倫相手とこのホテルを利用している人です。
尚美は依頼を日下部から依頼を受けていた件について、内容を日下部に報告します。
「あしながおじさん作戦」です。
フラワーアレンジメント、シャンパン、夜景を利用した映像のショーをホテルからのプレゼントとして緑に送る。
そして、最後に実はとある男性から頼まれたことだったと伝えて、2人を引き合わせる作戦でした。
夫が姿を見せない緑を警察はマーク。
緑の住所は今は別人が住んでいて、夫の携帯もつながらない状況だと知ります。
そして、またしても警察に密告が入ります。
「春菜を殺した犯人がカウントダウンパーティに仮装して現れるので、その仮装内容を伝える。だから刑事を待機させて、必ず逮捕してほしい」と。
過去に起きていた類似事件
関連していると思われた事件の詳細が明らかになりました。
室瀬亜実。26歳。
絵本作家でした。風呂場で感電死しています。
男が部屋に出入りしていたことがわかりました。
浦部あてにとても重いダンボール箱が届きます。
それを部屋に届けるふりをして新田が部屋へ侵入して、怪しいことがないかをさりげなくチェックします。
すると、浦部のスウェットの足首のところに動物の毛がついていることを発見。
殺された春菜はトリマーでした。
貝塚由里がチェックインします。
家族でチェックインしていた曽野昌明の不倫相手です。
警察に情報が入ります。
春菜のペットサロンの防犯カメラに浦部が写っていたことがわかりました。
「あしながおじさん作戦」が成功した後、緑達に部屋に来るようにと、新田がよばれました。
そして、緑は夫は本当はいないことを告白します。
(実はこの時にはすでに新田は分かっていた)
病気で死んだ夫と話していたマスカレードナイトが行われるこのホテルでカウントダウンを心の中で一緒にお祝いしたかったということでした。
2人でチェックインして楽しむかのように。
一方警察は、室瀬亜実(検索で類似事件でヒットした事件の被害者)のマンションの防犯カメラの映像を照合するも、ホテルにきている人の中に合致する人は見つけられませんでした。
殺害された春菜(今回の被害者)のマンションの住人に浦部の顔写真を見せて聞き込みをするが、自分が見た人とは全然違うと言われてしまいます。
そして捜査が進むうちに、どちらの被害者も二股をかけていたことがわかります。
浮気相手に嫉妬した男は殺害におよんだのではないだろうかと推測。
怪しかった浦部の部屋に新田たちが侵入し、浦部の本名は内山幹夫だとわかる。
警察に追い詰められた内山は全てを告白します。
殺された春菜とは恋仲であったが、不倫をしていました。
それをネタに犯人に脅されて今回の仕事をやらざるをえなかったといいます。
ホテルに泊まって、指示を待っている状態でした。
届いた段ボールの中身は、パーティーのチケット、ペンギンの仮装道具、重みのあるカバンが入っており、それをもって、会場に入るように指示されていました。
パーティー開始前に緑は新田にお礼の伝言を残して、チェックアウトしていました。
あらすじ(ネタバレあり)
マスカレード・ナイトがスタート!
「マスカレード・ナイト」が始まりました。
警察は監視モニターをもとに現場を観察します。
ペンギンの仮装(内山)がブライダルコーナーへカバンを置いてでてきました。
一方、別のお客様の頼み事でチャペルへ向かった尚美は何者かに襲われてしまいます。
気づいた時には倒れていて、ガムテープで口をふさがれ、袋を頭から被せられた状態でした。
そして、尚美は他にもつかまっている人物がいることに気づきます。
警察はブライダルコーナーから例のカバンを持ち出したミイラ男を監視していました。
しかし、新田は異変を感じます。
そして、警察は今はこのミイラ男に集中しすぎていて、別の場所で何か起きていても気づけない。
これは囮じゃないかと考えました。
警察が注目していないフロアに向かった新田は従業員の格好をした男とすれ違います。
こっそりあとをつける新田は、男がトイレでマイケルジャクソンの格好に着替えて出てきたところを目にします。
男はそのまま会場へ。
新田もあとをつけてそのまま会場へ向かいました。
そして0時ちょうどにみんなの仮装が一斉に解かれるのタイミングで新田はマイケルジャクソンの覆面をはがします。
すると、そこには知らない顔がありました。
しかし、その男の目元口元からこの男は「仲根緑」だと見抜くのでした。
(亡くなった夫のためにホテルに宿泊していた美人女性の正体)
男に勝利宣言をされた新田は危険が迫っていることに気づきます。
シャペルに駆け込むとそこには感電死させられそうになっていた尚美と貝塚由里がいました。
もう少し遅ければ2人は殺されているところでした。
犯人が尚美の遅れた時計に合わせて通電するようにタイマーをかけていたのでギリギリのところで助かったのです。
通報からの計画までの真相
曽野英太(不倫していた曽野昌明の息子)は父が買った超望遠のカメラを内緒で使って覗きを楽しんでいました。
そしてたまたま春菜の部屋を偶然覗いてしまったのです。
そして、若い美人女性だったのもあり、覗き&盗撮生活をはじめます。
そして男が部屋を訪ねてきたりしているのを盗撮していました。
するとある日足だけ窓から見えるもピクリとも動かない様子に異変を感じます。
もしかすると死んでいるかもしれないと警察に通報を考えますが、万智子(母親)は息子の盗撮を明かすわけにはいきません。
そこで匿名通報ダイヤルを使って警察に連絡したのでした。
万智子は息子が犯人の証拠を手に入れた大金星に心がゆらぎます。
警察に通報するよりももっと上手く利用できないかと。
そして、高校時代の友人・貝塚由里に相談します。
由里は高校の時からの友人でした。
友人といっても、由里はヒエラルキーのトップ的存在で、自分を守るために仲の良いふりをしているだけの関係です。
その狡猾さを頼りに相談したのです。
お金が欲しかった由里はその相談にのって、計画をします。
相手は医療法人を経営する一族の御曹司で森沢光留といい、神経科のクリニックを経営してるとのことでした。
やり方によっては大金を手に入れることができると判断したのです。
しかし、計画がどんどん進む中、由里は考え直します。
狡猾な由里と共犯になるということは、今後ずっとこの関係が続いてしまう。
息子の盗撮をネタに脅されてもおかしくはない。
向こうは私のことを利用できるかできないかで考えているだけだと思い始めたのです。
そして、夫の不倫相手が由里だったことも万智子は知っています。
そして森沢に逆に由里を殺して欲しいと逆に依頼するのです。
そして由里が考えた「マスカレード・ナイト作戦」を逆手にとって実行することになったのです。
森沢光留(牧村緑)の供述
森沢は話します。
お金の受け渡しを行ったミイラ男は金で雇った人であり、深いつながりはないと。
そして、前もってホテルに宿泊した理由は、警備状況を確認するためでした。
ただ、女1人で年末に連泊は警察に不審がられると思い、ならばと嘘のストーリーを作り出し新田たちに話したのでした。
「怪しんで怪しんで、最後に疑問が解けた時、人は一切疑わなくなる。牧村緑がチェックアウトした後に殺人事件が起きても、誰も彼女について深く調べようとはしないだろう。なぜなら彼女のことはもうわかっているからだ。事件とは無関係。調べる必要もない」
感電死にしたのは女性を醜い死体にしたくはなかったから。
そして動機は、万智子に頼まれたからと言います。
しかし新田は詰めよります。
森沢の被害者だった笠木美緒に話をきいていたのです。
(彼女は途中で恋人となる人の手によって助けられていた)
森沢は姓を超越した存在だと思っていること。
双子の妹の世羅がとても可愛くて、一緒に姉妹ごっこをするようになっていたこと。
そして、レイプされて自殺してしまったことなど。
男性恐怖症だった彼女は彼の前では震えることがなかった。それが彼に近くことになってしまった。
自分はマインドコントロールされていたと言います。
ロリータ衣装を着させられるのもそういったやりとりの一環でした。
亡くなった妹の代役が男に心を許したことに裏切られたと思い、ゆがんだ憎悪になったのではないかと新田は話します。
すると森沢は取り乱し、警察への復讐だと話します。
レイプされた妹は何人もの刑事の前で詳細に事件の報告をさせられて苦しんだ。
でも犯人を捕まえてくれると信じて、耐え抜いたのだ。
しかし犯人は捕まらなかった。
あげくのはてに刑事に「犬に噛まれたと思って早く忘れることだ」と言われたと。
それからまもなくして妹は命をたったのだ。
警察を許せないと言います。
厳戒態勢のなかでまんまと事件が起きれば、警察の権威は失墜し、世間から笑い者になるだろう。
そう考えて犯行をおこなったのだと言葉をはきだすのでした。
※難題を何回も尚美に相談していた日下部は実は、ホテルコルテシア北米支部担当のスカウトだったとわかります。
新しくロサンゼルスにできたホテルにスカウトするためのテストだったのです。
ただ、牧村緑には本当に騙されたと話しています。
感想
マスカレードホテルの時と同様、怪しく思える行動が犯人だからなのか、単なるプライベートなんかを見極めながら犯人を探していくとうい設定はとても面白いと思います。
コンシェルジュの尚美が「ホテルマンとして、無理とは言っていはいけない」という信念の元、無理難題を仲間と協力していく様は見ていてとても爽快でした。
犯人は誰なのか?という本筋を追いながら、お客様からの課題をどうやって解決するのか?という見どころが同時並行で進んでいくので、読んでいて途中で中だるみせずにスイスイ読んでいける、見事な構成だと思いました。
前述の森沢の言葉、「怪しんで怪しんで、最後に疑問が解けた時、人は一切疑わなくなる」は東野圭吾さんから読者へのメッセージにもとれて、なるほどなと納得してしまいました。
僕も警察と同じように知らず知らずに牧村緑を犯人からはずしていたからです。
つくづく上手いなと思います。
「趣味や思考が違う人間の気持ちになって考える。これは刑事とホテルマンの共通点だけれども、目的は真逆で、ホテルマンはおもてなしのため、刑事は相手の嘘を見抜くため」
というセリフはとても印象に残っており、まさにこれが事件解決のためにかかせない要素となっているのだなと感じました。


